第73回日本斜視弱視学会・第42回日本小児眼科学会 大嶋

間歇性外斜視患者の読みをアイトラッカーで見たら、行末から次の行頭への視線を移動させるとき、

XPT患者は同じ行の行頭へ視線が戻り、行頭と文末を視線が往来する行反復を繰り返してから次の行頭へ視線が行く。健常者の行反復が0.2±0.4回に対し、4.9±2.3回である。

改行時のsaccade中に横ずれでなく上下の僅かな眼位ずれが起こることが原因するとみられる。

この行反復は輻湊不全型XPT患者で顕著であり、リーディングパフォーマンスの低下につながると考えられる。

 

チャージ症候群の弱視治療の可否。患眼は遠視性乱視で視力不良のことが多い。

乳頭コロボーマが大きく弱視治療もあきらめがちだが、OCTを取ると中心窩がきっちり形成されていることもあり、中心窩が確認された3歳児に眼鏡+健眼遮蔽の弱視治療を行ったところ、0.1だった視力が0.8、立体視800″まででた。

中心窩をOCTで確認したうえで、積極的に治療すべきである。

 

スポットビジョンスクリーナー

やはり乱視の偽陽性はあるものの健診などでは有用であるとの報告多かった。

+1.0~+2.0程度の遠乱でもアトロピン点眼後の測定では+5~+7の遠視が出ることもあり、

一概に問題なしとは言えない。

視力の結果と両方で判断。

SVSの測定範囲は他のレフより狭くて±7Dなので注意が必要とのこと。

9方向向き眼位にて偏位量を見る試みをしている発表もあった。

 

視能矯正学会報告 大嶋

アトロピン硫酸塩の副作用の発症率とシクロペントラート塩酸塩との屈折差の比較

アトロピンの濃度は5歳未満0.5% 5歳以上1.0% を使用する。

1日3回 5日間 又は 1日2回 7日間 点眼

保護者への説明

アトロピン検査が必要な理由

点眼方法 両眼に1滴ずつ点眼すること、副作用防止のため1~2分間涙嚢部圧迫。

点眼の効果で羞明、近見障害がでる。

発熱、顔面紅潮などの副作用と思われる症状がでたら点眼を中止し、そのほかにも以上あれば病院に連絡する。

本人以外が使用しない。保護者が責任を持ち保管する、使用後は破棄すること。

副作用 83例中3例 (3.6%)顔面紅潮や発熱だったが、いずれもすぐ治まり点眼続行できた。

3例中1例は1年後に再度アトロピン検査をしていたが問題なく施行できた。

シクロペントラートとの屈折差は平均すると0.5~1.0D程度であるが、サイプレ点眼で処方した眼鏡で視力の向上が見られず、アトロピン検査を施行し、+2.0程度の度数差が出た症例もあった。遠視度数を強めたことで視力の向上が得られた例もあり、点眼には手間もかかるが、副作用も少なく調節麻痺効果の大きいアトロピン検査は内斜視や屈折異常弱視には積極的に提案すべきである。また、調節麻痺効果が残ってるうちに処方眼鏡を装用することは健眼の視力が良好な不同視弱視には有用である。

 

大きな中心暗点の症例に対するロービジョン訓練の試み

大きな中心暗転のあるロービジョン患者にとって周辺に残された視野の活用は非常に難しいが有効視野の理解と偏心視獲得のための眼球運動訓練を指導し、家庭訓練を行うことで、訓練前右眼耳側のみ用いて見ていたが、左眼の耳側も用いて見ることができるようになり、固視交代により拡大読書器を用いての読み効率が良くなった。

患者自身の意識の有無にかかわらず、自然に偏心視を獲得することもあるが、中心部が見にくい患者に対し医療関係者が早い時期に偏心視の評価及び指導をすること、 患者本人が病態を理解し高いモチベーションで訓練することで、安定した偏心固視を獲得し、視機能の活用範囲を広げることで患者のQOLが上がる。

ORTeで日常視に近い状態で遠見立体視の定量ができる。また、TSTでの近見立体視の結果とも相関がみられる。

 

アトロピン検査は行っていないが、サイプレジンだと調節麻痺効果が不完全な場合があること、弱視治療の際、視力の向上が見られない際はアトロピン検討、遠視のUPも考慮したい。

黄斑部疾患の患者さんの視野状態の把握も大事だと思った。中心暗点がある患者さんへのケアを外来でももう少しできればと思う。

ORTeはまだまだ活用の幅があると思いました。遠見立体視が測れるようスペースの工夫をしたいです。

視能訓練士協会基礎教育プログラムⅢ 大嶋

1日目視能矯正、2日目視能障害について、それぞれグループワークで症例検討、発表、解説フィードバック

1日目 視能矯正

不同視弱視、微小斜視弱視の症例の検査、訓練を学ぶ。

アトロピン点眼での調節麻痺は特に健眼の屈折値がサイプレと違うことがあるので、推奨される。

固視検査が重要。

メガネで視力が伸び悩む不同視弱視は微小斜視弱視を疑う。健眼遮閉の延長や、斜視弱視にはアトロピンペナリゼーションが有用。パッチで数か月最高視力出してから検討。固視交代をさせる。

2日目 視能障害

黄斑変性での中心暗点患者へのロービジョン

視野検査結果から得られた偏心視の指導。

拡大鏡の必要パワーの算出方法

中心暗点があると視力値で予測した倍率より予想を超えて拡大が必要。

読めるpont/読みたいpont で倍率を割り出す。国リハ近見チャートにて1分間に読める文字数をカウント。臨界文字サイズ、最大読書速度がわかる。

第17回抗加齢医学会に参加して 松坂

今回の抗加齢医学会のテーマは「Anti-aging Breakthroughs」、抗加齢の基礎研究のエビデンスと人疫学研究の成果を実臨床に結び付け、老化を制御できないかという願いを込めたテーマとのことでした。実際には実臨床に結びついた報告はまだこれからという印象でしたが、老化のプロセスについてはかなり解明されてきているという印象を受けました。

 

老化のプロセスにNADが大きく関与しており、サーチュインがNAD依存性であることや、NADが加齢とともに体内で減少することから、NADの前駆体であるNMNの投与によりNAD濃度を体内で上昇させることが寿命の延長につながると考えられているそうです。ステムセルはいつでも増殖・分化して組織を作る細胞だと思われていましたが、ステムセル自体も老化して能力が落ちてしまうのではないかという「ステムセルエイジング」という概念ができ、その解明が試みられているとのことです。オルガノイド培養法という、ステムセルを長期的に培養する技術のために用いるステムセルを若いマウスから作った場合と老いたマウスから作った場合とで比較すると、老いたマウスからとったステムセルはなかなか大きくならず、そこには老化が絡んでいると推察されたため、老いたステムセルのNADを実験で増やしてみると推測通り若いステムセルと同等の増殖・分化を認めたそうです。

若いステムセルにおいてエピゲノム状態はほぼ均一に保たれていますが、加齢に伴い自己複製を繰り返すことでエピゲノム変化が蓄積し、最終的にはステムセルの枯渇に伴う組織の機能不全や増殖異常につながると考えられます。NADの増加によりステムセルの老化を抑制することが出来れば、このエピゲノム変化の蓄積による組織の機能不全や増殖異常を抑制することが可能となり、様々な疾患の予防に繋がる可能性があるとのことです。

高齢化が進む今、これらの抗加齢医学研究が実臨床に応用され、予防医学が発展することを期待します。

 

眼科関連の講演としては、光から健康に!というテーマでの講演が興味深かったです。

光環境で特に注目される波長はブルーライト領域であり、サーカディアンリズム障害による不眠、うつ病だけでなく、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症などの慢性疾患とも関している可能性があるとのことでした。世界的に急増する近視進行にバイオレットライトが関与することもわかり、屋外で遊ぶと近視が抑制されると言われる理由が明らかになったとの報告もありました。但し、眼鏡はバイオレットライトを通さないので、指導する際は裸眼での活動を薦めるかバイオレットライトを透過するCLの使用を薦めた方が良いとのことでした。ブルーをカットしバイオレットを透過する眼鏡を開発中とのことなので、近い内に学童期の眼鏡としてお奨めできるものが発売されそうです。