第71回臨床眼科学会に参加して 松坂

今回の臨床眼科学会のテーマは「Ophthalmology、the Next Generation(次世代の眼科学)」ということで、最新の検査機器や手術機械を用いてわかってきたことや可能になったことを知ることが出来ました。特に、眼循環が目視か出来るようになったことで、疾患の進行、悪化と眼循環との係わりが示唆されるようになり、治療の視点が変わってきていることを感じました。

 

眼血流と眼疾患というシンポジウムで、LSFGやOCTAによりわかってきた網膜疾患や視神経疾患の病態についての講演がありました。緑内障患者は乳頭周辺の血管密度が病期に比例して少なくなっていることはわかっていたそうですが、黄斑周辺の血流はあまり関係ないと言われていたそうです。しかし、黄斑周辺の血管密度も正常眼より優位に少なく、PPGの段階で末期緑内障とほぼ同程度まで減ることがわかったそうです。黄斑の無血管領域の変化をみることは緑内障の進行の予測に役立つとのことでした。

面白いと思ったのは、頭蓋内血流と眼疾患との関係についての講演で、緑内障の人は脳血流が低下している人が多いそうでNTGで眼圧は十分低いのに視野変化の進行が早い人は一日の乳頭血流の変動が大きく、=眼窩内血流の変動が進行の原因なのではではないか?と話されていたことです。NTGではNFLが脆弱であり、その原因は酸化ストレスと脳脊髄液の圧のバランスが崩れることによって起こる循環不良によるものだと考えられる為、酸化ストレスの除去と眼血流の改善によりNTGの進行を抑制できる可能性があるとのことでした。NTGについては高血圧より低血圧の方がリスクファクターになるそうです。また、緑内障患者は血管内皮細胞の機能不全があり、正常化することで進行を抑えられるのではないかという視点でも研究がなされているとのことでした。

RGC Rescue in GlaucomaというタイトルのUCLAのDr.よる特別講演で、緑内障による視野変化は不可逆的なものだとされていたが、RGCの機能が低下してからアポトーシスするまでにはタイムラグがあり、その間に十分眼圧を下げればRGCが回復して視野変化も回復すると話されていました。座長をされていた岐阜大学の山本先生も視野回復した症例を経験されているそうで、早い段階で積極的に外科的治療による眼圧下降の必要性を感じていると仰っていました。

 

白内障手術については、みなとみらいの荒井先生がORA systemを使って術中にIOLの度数調整をしている映像を流されていて、初めて実際の映像を見たのでとても興味深かったです。完璧を目指して手術を行っていると仰っていて、Lentisのnon-Toricは全パワーを揃えているのでORAでターゲットズレしそうなら術中に度数を変更し、乱視が残りそうならAKを追加するという調整をされているそうです。IOLについてはやはりEDOFが流行のようで、シュミレーター上ではSymfonyもグレア、ハローがあり、MiniWellというイタリアのIOLがハロー、グレアがほぼ単焦点と同程度で患者満足度も高いと話されていました。

非球面レンズは角膜不正乱視、角膜混濁、瞳孔偏位など光学中心に光が集約して透過しない眼では、逆に収差を増やすので、球面レンズを挿入した方が良いと報告されており、今後IOLを選択する際の参考にしようと思いました。

 

角膜治療の最近の進歩というシンポジウムで、ドライアイの86%がMGDであるとの報告があり、最新のMGD治療の報告がありました。マイボーム腺開口部に刺入して開口部を広げる針の紹介やIPLをマイボーム腺付近に照射し内側から温めることでMGDを改善されるという治療紹介など様々な治療の紹介がありました。その中で、ジクアスは涙液量と粘液量を増やすだけでなくマイボーム腺機能の改善効果もあり、MGDを伴うドライアイに有効との報告がありました。また、どの治療を行ったとしても温罨法は継続することが大切で2回/日、5分間の温めを継続すると優位にMGDが改善されるとの報告があったので、ドライアイの患者様に点眼の説明をする際に更に意識してお話しようと思いました。

 

フェムトを用いた角膜治療の講演で、SMILEの臨床成績が想像以上に良いこと、FLAKという移植片をフェムトで作成するという角膜移植への応用がパラダイムシフトになりつつあるということを改めて知りました。

また、円錐角膜に対するクロスリンキングの有効率が90~95%であり、進行を停止させることが可能な疾患になっていることを知りました。ただ屈折矯正は出来ないので、屈折異常が進行する前に積極的に治療することが大切とのことでした。

現在角膜移植に代わる先進的な治療法として、角膜内皮注入療法という角膜内皮再生医療の研究、開発がされているそうです。高品質な培養ヒト角膜内皮細胞をROCK阻害剤と共に前房内に注入するというもので、既に人への臨床研究もされており、近い将来実用化されるかもとのことでした。